栄養のコト、メモるわ

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腸と心の関係を考える―過敏性腸症候群と精神的な共病の多面的な治療法 (2023/12/3)

過敏性腸症候群と管理栄養士の関わり

私達管理栄養士は、食事や栄養の管理を通じて、患者さんの健康をサポートする専門家です。しかし、食事や栄養だけではなく、心の健康も患者さんの体調や生活の質に大きな影響を与えます。特に、過敏性腸症候群IBS)という病気においては、心の健康が重要な役割を果たしています。IBSは、腹痛や下痢、便秘などの消化器の症状を繰り返し起こす病気で、世界の5~10%の人が罹患しています。IBSの患者さんの約3分の1は、不安やうつなどの精神的な症状も併せ持っています。消化器の症状と精神的な症状は、IBSの患者さんの医療利用や生活の質に影響を与えますが、精神的な症状の方がより重要な要因であることがわかっています。このように、IBSは腸と心の関係を象徴する病気であり、私達管理栄養士にとっても、食事や栄養のみならず、心の健康にも配慮した治療法を提供することが求められています。

消化器の症状を栄養で、心の症状を心理療法

今回のブログでは、IBSと精神的な共病(不安やうつなど)を持つ患者さんの治療法について、最新のレビューを紹介します。この論文は、消化器科、栄養科学、心理学の専門家が共同執筆したもので、IBSと精神的な共病の患者さんの臨床評価や治療法の調整について、多面的な視点から提言しています。

この論文は、IBSの治療において、消化器の症状を栄養で、心の症状を心理療法で対処するという、統合的なケアモデルが最善の方法であると主張しています。しかし、実際には、IBSと精神的な共病の患者さんの治療には、さまざまな課題があります。例えば、精神的な症状の重症度や種類によって、適切な心理療法の選択や順序が異なります。また、心理療法のアクセスやコスト、患者さんの受け入れや継続性なども、治療の効果に影響します。このような課題に対処するために、この論文では、デジタルツールの活用や非専門家による介入などの方法も提案しています。

このレビューは、IBSと精神的な共病の患者さんの治療法に関する最新の知見をまとめたものであり、私達管理栄養士にとっても、参考になる内容です。

 

研究の概要:

Irritable bowel syndrome and mental health comorbidity — approach to multidisciplinary management (Nature Reviews Gastroenterology & Hepatology, 2023)

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37268741/

 

研究の目的

  • このレビューの主な目的は、IBSと精神的な共病の患者さんの治療法に関する最新の知見をまとめることです。

  • 研究が解決しようとしている問題は、IBSと精神的な共病の患者さんの治療における課題やギャップを明らかにし、その対処法を提案することです。

 

方法

  • 研究の設計:この研究は、文献レビューと専門家の意見を組み合わせたものです。文献レビューでは、IBSと精神的な共病の患者さんの臨床評価や治療法に関する最新の研究を検索し、分析しました。専門家の意見では、消化器科、栄養科学、心理学の分野の研究者や臨床家が、文献レビューの結果に基づいて、臨床的な提言を作成しました。
  • 研究の対象となる患者や参加者の特徴:この研究の対象となる患者や参加者は、IBSと精神的な共病(不安やうつなど)を持つ成人です。IBSの診断は、ローマIV基準によって行われます。精神的な共病の診断は、DSM-5やICD-10などの診断基準によって行われます。
  • 使用された主な介入や比較された治療法:この研究では、IBSと精神的な共病の患者さんの治療法として、以下のような介入や治療法を検討しました。
  1. 栄養療法:
    食事の内容や頻度、量などを調整することで、消化器の症状を改善する方法です。例えば、低FODMAP食(発酵性オリゴ糖、二糖類、単糖類、ポリオールを制限する食事法)や、グルテンフリー食、乳製品フリー食などがあります。
  2. 心理療法
    心の症状を改善するために、患者さんと心理療法士が対話する方法です。例えば、認知行動療法(CBT)、受容的コミットメント療法(ACT)、マインドフルネスベースのストレス低減法(MBSR)などがあります。
  3. 薬物療法
    消化器の症状や心の症状を改善するために、薬物を使用する方法です。例えば、抗コリン薬、抗下痢薬、下剤、抗うつ薬抗不安薬などがあります。
  4. デジタルツールの活用:
    栄養療法や心理療法を補完するために、デジタルツールを使用する方法です。例えば、スマートフォンアプリやウェブサイトなどがあります。
  5. 非専門家による介入:
    栄養療法や心理療法を補完するために、非専門家が行う介入です。例えば、自助グループピアサポートなどがあります。
 
主要評価項目:

消化器の症状、生活の質、精神的な症状、医療利用の4つの観点から評価

 

主要な結果

  • 栄養療法は、消化器の症状を改善する効果があることが示されています。特に、低FODMAP食は、IBSの重症度や品質生活指数を改善することが多くの研究で報告されています。
    低FODMAP食は長期的には栄養バランスや腸内細菌の多様性に悪影響を与える可能性がある。そのため低FODMAP食は、短期的に消化器の症状をコントロールするために用いられ、その後は個別に適応した食事に移行することが推奨されている。)

低FODMAP食
FODMAPとは、発酵性オリゴ糖、二糖類、単糖類、ポリオールの頭文字をとったもので、腸内で発酵しやすく、水分を引き寄せる性質のある糖類のこと。
FODMAPは、IBSの患者さんにとって、腸内でガスや圧力を生じさせ、腹痛や下痢、便秘などの症状を引き起こす可能性があります。
そのため、FODMAPを制限することで、消化器の症状を改善することができます。

低FODMAP食では、以下のような食品を避けることが推奨されています。
発酵性オリゴ糖:小麦、大麦、ライ麦、玉ねぎ、にんにく、アスパラガス、ひよこ豆、レンズ豆、大豆など
二糖類:乳製品、アイスクリーム、ヨーグルトなど
単糖類:りんご、洋梨、桃、マンゴー、チェリー、はちみつ、アガベシロップなど
ポリオール:アボカド、カリフラワー、キャベツ、キノコ、スイカ、杏、プラム、ガム、ミントなど

  • 心理療法は、精神的な症状を改善する効果があることが示されています。特に、認知行動療法は、不安やうつの尺度や症状チェックリストを改善することが多くの研究で報告されています。また、認知行動療法は、消化器の症状や生活の質も改善することが示されています。
    しかし、心理療法の効果は、精神的な症状の重症度や種類によって異なります。例えば、うつ病の患者さんには、認知行動療法よりも抗うつ薬の方が効果的であることが示されています。そのため、心理療法は、精神的な症状の評価に基づいて、個別に適応したものを選択する必要があります。
  • 薬物療法は、特に、抗うつ薬は、IBSの重症度や品質生活指数を改善することが多くの研究で報告されています。また、抗うつ薬は、不安やうつの尺度や症状チェックリストも改善することが示されています。
    しかし、薬物療法には、副作用や依存性などの問題があります。そのため、薬物療法は、患者さんの症状や反応に応じて、適切な用量や期間を決める必要があります。
  • デジタルツールの活用は、栄養療法や心理療法を補完する効果があることが示されています。特に、スマートフォンアプリやウェブサイトは、患者さんに食事や心理療法の情報や指導を提供することができます。また、スマートフォンアプリやウェブサイトは、患者さんの症状や行動をモニタリングし、フィードバックやサポートを提供することができます。デジタルツールの活用は、患者さんのニーズや好みに合わせて、カスタマイズする事が勧められている。
  • 非専門家による介入、特に、自助グループピアサポートは、患者さんに情報や経験を共有することができます。また、自助グループピアサポートは、患者さんに相互の理解や励ましを提供することができます。情報の質や安全性などの問題に配慮しながら、専門家の監督や指導を受けて行うことが必要です。

 

研究の限界

  • この研究は、文献レビューと専門家の意見を組み合わせたものであり、実際の患者さんのデータや介入の効果を検証したものではないため、この研究の提言は、エビデンスに基づいたものではありますが、実証的なものではないという点に注意が必要です。

  • 検索された研究の質や量にはバラツキがあります。特に、栄養療法や心理療法に関する研究は、ランダム化比較試験やメタアナリシスなどの高いエビデンスレベルのものが少なく、また、研究の設計や方法論にも多様性があります。

  • 専門家の意見は、必ずしも一致するとは限りません。特に、消化器科、栄養科学、心理学の分野の専門家は、それぞれに異なる視点や知識を持っています。そのため、この研究の提言は、専門家の意見のコンセンサスに基づいたものではありますが、個別の専門家の意見とは異なる場合があるという点に注意が必要です。

結論と臨床への意義

「結局、結論としては?」 

この研究の結論としては、IBSと精神的な共病の患者さんの治療には、消化器の症状を栄養で、心の症状を心理療法で対処するという、統合的なケアモデルが最善の方法であるということです。しかし、このケアモデルを実施するには、さまざまな課題や制限事項があります。そのため、この研究では、これらの課題や制限事項に対処するために、臨床評価や治療法の調整について、多面的な視点から提言しています。この研究が臨床実践や政策立案に与える影響としては、以下のようなものが考えられます。

  • 臨床実践においては、IBSと精神的な共病の患者さんの治療には、消化器科、栄養科学、心理学の専門家が協力して、統合的なケアを提供することが重要です。また、患者さんの症状やニーズに応じて、栄養療法、心理療法薬物療法、デジタルツールの活用、非専門家による介入の5つの方法を組み合わせて、個別に適応した治療を行うことが重要です。

  • 政策立案においては、IBSと精神的な共病の患者さんの治療には、消化器科、栄養科学、心理学の分野の連携や支援を促進することが重要です。また、栄養療法や心理療法などの非薬物療法の普及やアクセスの向上を図ることが重要です。さらに、デジタルツールの活用や非専門家による介入などのイノベーションの開発や評価を行うことが重要です。