栄養のコト、メモるわ

栄養についての文献、研修で勉強したこと、ここでぶちまけるわ。 間違ってること書いとったら遠慮なく言うてや。

集中治療室ICUの栄養療法:パーソナライズされたアプローチの重要性 (2023/11/30)

みなさん、集中治療室(ICU)と聞くと何を思い浮かべますか?

高度な医療機器、緊張感あふれる環境、そして何よりも、そこで戦っている患者さんたち。今日は、そんなICUでの栄養療法について、私たち管理栄養士の目線からお話ししたいと思います。

 

ICUでの栄養療法:単なる「食事」ではない

想像してみてください。あなたの大切な人がICUで治療を受けていると。

その時、私たち管理栄養士ができることは、単に食事を提供することだけではありません。患者さん一人ひとりの体の状態に合わせて、最適な栄養を提供することが私たちの使命です。この個別化された栄養療法が、回復への大きな一歩となるのです。

 

研究の背景:なぜ個別化対応が重要なのか?

この研究は、医療の最前線で戦う患者たちに最適な栄養を提供するための模索を行った専門家たちの集大成です。なぜ個別化された栄養療法がICUで重要なのでしょうか?それは、ICUにいる患者さんたちの体は、それぞれ異なる特殊な状況にあり、一般的な栄養指導では十分ではないためです。私たちは、それぞれの患者さんに合わせた栄養プランを作成し、彼らの回復を最大限にサポートします。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22261952/

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspen/26/3/26_3_873/_pdf/-char/ja



研究の概要:

「Personalized nutrition therapy in critical care: 10 expert recommendations (Critical Care, 2023)」

 

この論文は、ICUでの栄養療法をどのように個別化対応すべきかについて、専門家たちが詳細に語っています。彼らの推奨事項は、ICU患者の複雑な栄養状態に深い洞察を提供し、患者さん一人ひとりに合わせたケアの道筋を示しています。

 

研究の目的

この研究の目的は、ICU患者における栄養療法をどのように個別化対応すべきかについて、実践的な推奨事項を提供することです。患者さんの回復を最大限にサポートするために、エネルギーとタンパク質の適切な供給、微量栄養素の管理、筋肉量の維持など、様々な側面を考慮したアプローチを提案しています。

 

方法論:患者一人ひとりに寄り添う

この研究では、専門家たちが患者一人ひとりのニーズに応じて栄養療法をどうパーソナライズすべきかについて、10の重要な提案を行っています。彼らの目的は、ICUにいる患者たちがそれぞれ異なる状況にあることを踏まえ、一般的で一律の栄養管理ではなく、個々のニーズに合わせた栄養プランを作成することです。

  • 研究の設計:アメリカおよびヨーロッパのガイドラインと最新の文献を基に、専門家の実践的な提案を取り入れたレビューです。
  • 対象となる患者:ICUに入院している患者たち。
  • 主な介入:患者一人ひとりの状態に合わせた経腸栄養や静脈栄養、エネルギー消費の測定、プロテイン投与量の調整など。


主要な結果:患者の回復に寄与する発見

ICU入院後48時間以内に開始する低用量のENやPNが、患者の回復に効果的であることが明らかになりました。これは、ICUにおける患者さんたちの栄養ニーズを迅速に満たす新たな手法となり得ます。

エネルギー消費の測定を通して、患者さん一人ひとりに最適なエネルギーターゲットを設定することが推奨されています。これにより、患者さんの回復に合わせた柔軟な栄養管理が可能になります。

プロテインの投与量を患者の状態に応じて調整することで、回復期の栄養サポートを最適化します。これは、ICUでの回復過程において非常に重要な役割を果たします。

筋肉量の評価やミクロ栄養素のモニタリングを通じて、患者の栄養状態をより詳細に把握し、適切な栄養介入を行うことが可能になります。

 

ICUの個別化栄養管理における10の提言

①栄養摂取開始のタイミングを決める
  1. 栄養開始のタイミング: 早期の高用量栄養投与は避け、患者がICUに入院してからの早い段階で安定するまでは控えめにするべきです。
  2. 経腸栄養(EN)の優先: ENは早期栄養投与の推奨される方法ですが、実行不可能な場合は、同等のカロリーを持つ静脈栄養(PN)が安全に投与できることが示されています。
  3. ガイドラインの遵守: ASPENとESPENのガイドラインは、重症患者に対して24-48時間以内にENを開始することを推奨しています。
  4. 非栄養的利益の研究: EN、特に微量栄養(trophic)ENの非栄養的利益(微生物叢の健康、腸のバリア機能、迷走神経シグナル、腸間膜リンパの毒性)に関する研究が進行中です。

 

②給餌量をパーソナライズする: 間接熱量測定の役割?
  1. ICの役割: ICはエネルギー消費(EE)測定のゴールドスタンダードであり、ESPEN/ASPENガイドラインでは、患者の安定化後(ICU入院後2〜3日後)にEEの測定を推奨しています。
  2. 過剰栄養/不足栄養の防止: ICを使用することで、過剰栄養または不足栄養を防ぐことができます。
  3. 栄養投与量の調整: 高用量のバソプレッサーを使用するICU患者では、低エネルギー量(1日あたり5〜10kcal/kg、プロテインは0.4g/kg以下)を7日間または患者がエクスチューベーションされ、バソプレッサーが減少するまで検討することができます。
  4. 早期の急性期における栄養: ICが使用できない場合、予測方程式を使用して早期の急性期(最初の3日間)のエネルギー需要を推定する必要があります。
  5. エネルギー投与量の段階的増加: ICU入院後の初期段階(3日目から7日目まで)では、EE目標の約70%の栄養を投与し、その後患者の回復に合わせて段階的に増加させることが提案されています。

 

③タンパク質投与の個別化: 量とタイミングは?
  1. 初期のタンパク質投与量: ICU入院の初期急性期(最初の3日間)では、1日あたり0.8g/kg以下の低用量プロテイン投与を検討し、その後段階的に1.2g/kg/日以上に増加させることが推奨されます。(EN開始時には栄養剤の投与量は比較的少ないため、無理に低タンパク質の栄養剤を選択する必要はない)
  2. プロテイン投与量の調整: 高用量のバソプレッサーを使用している安定していない患者や、急性腎障害(AKI)を有する患者では、高用量のプロテイン投与を避けることが推奨されます。
  3. ガイドラインに基づく投与: ASPEN 2021およびESPEN 2019のガイドラインでは、重症患者に対して1.2〜2.0g/kg/日のプロテイン投与を推奨しています。
  4. 個別化戦略の開発: 筋超音波や生体インピーダンス分析(BIA)などのベッドサイド技術やバイオマーカーを利用して、個々の患者に合わせた栄養プロテイン療法を実施することが提案されています。

 

④個別化された静脈栄養 (PN)
  1. 静脈栄養(PN)のタイミングと投与:経腸栄養(EN: Enteral Nutrition)が早期に開始できない場合、PNは安全に開始でき、類似の成果を得られるとされています。
    ICU滞在中の早期には、高用量のPNは患者が安定するまで避けるべきです。
  2. エネルギー消費(EE)の測定とPNエネルギー投与量:EEの測定は間接熱量計測(IC: Indirect Calorimetry)によって行われるべきで、これはPNのエネルギー投与量を決定するのに役立ちます。
    ICU滞在の初期段階(4〜7日間)では、測定されたEEの約70%のエネルギーを投与し、その後患者の回復に合わせてエネルギー投与量を増加させることが提案されています。
  3. ASPENとESPENのガイドライン:ASPEN 2021では、ICUにおける重症患者に対して、ENまたはPNのいずれかを初期栄養投与の方法として推奨しています。
    ESPEN 2019では、口からの摂取やENが不可能な場合、3〜7日以内にPNを開始することを推奨しています。
  4. 重度の栄養不良患者に対する早期および段階的PNの提供:ENが不可能な場合、特に重度の栄養不良患者には、早期および段階的なPNが提供されるべきです。
  5. 臨床試験による証拠の生成:ICを使用してPNの投与をパーソナライズすることの役割、およびそれによるICU患者の臨床的および長期機能的成果の改善に関する研究が進行中です。

 

⑤(省略)
⑥栄養投与の個別化されたモニタリング
  1. 栄養供給と処方のギャップ:多くの研究は、経腸栄養(EN)の処方と実際の供給量の間にギャップが存在することを示しています。観察データによると、このギャップが大きいほど患者の成果が悪化することがあるが、これは病気の重症度によって混乱される可能性があります。より重症の患者は栄養をうまく摂取できない場合があります。
  2. デリバリー量の日常的認識:臨床医は、日々供給されたエネルギー/タンパク質の量と、パーソナライズされた栄養目標に対するこの量が占める割合を把握することが重要です。
  3. コンピュータ化情報システムの使用:新しいコンピュータ化された情報システムは、栄養量の可視化を可能にします。https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0899900705003539(引用古いですが、、)
    これにより、栄養供給の正確なモニタリングが可能になり、栄養供給量が著しく増加します。
  4. 新技術の導入:これらのシステムには、非侵襲的換気や高流量酸素療法において吸引リスクを予防/減少させるためのキャプター付き給餌チューブが使用されています。新技術では、胃食道逆流の存在/持続時間を検出し、リアルタイムで吸引を防止するのに役立ちます。初期の臨床試験データによると、吸引防止機能付き給餌チューブを備えた自動栄養プラットフォームは、ICUの滞在期間を短縮することが示されています。

    artmedical.com

 

ICUにおける微量栄養素とビタミンの欠乏
  1. 微量栄養素(MN)の欠乏の一般性:ICUにおけるMNの欠乏は頻繁に見られますが、しばしば検査や診断が行われていません。
  2. モニタリングの重要性:ESPENの新ガイドラインでは、特定のMNのモニタリングが推奨されています。これは、欠乏が数多くの合併症を引き起こす可能性があるためです。
  3. モニタリングのタイミング:ICUにおけるMNのテストは、6〜7日後に開始されるべきです。特にCRRT(連続的腎代替療法)を受けている患者は、多くの微量栄養素と水溶性ビタミンの損失/低測定値のリスクがあります。
  4. 損失のリスク因子:腸内損失、大きなドレーン、および大規模な火傷などがMNの欠乏を引き起こす可能性があります。
  5. 炎症による結果の解釈の複雑さ:ICUに一般的に存在する炎症は、MNのテスト結果の解釈を複雑にします。CRPが40 mg/lを超える場合、一部のMNは参照値を下回る可能性がありますが、これが必ずしも欠乏を反映するわけではありません。
  6. 補充の開始とモニタリング:補充は、MNのステータスに関する懸念がある場合、または参照値の20%未満である場合に開始されるべきです。補充を開始した後、7〜10日での結果のモニタリングが必要です。
  7. 欠乏のリスクのあるMN:銅、セレニウム亜鉛、鉄などの微量元素が、特定の臨床的結果(例:銅による長引く神経筋の弱さ、銅による汎血球減少症)と関連しています。

 

⑧集中治療室(ICU)における筋肉の分解と筋肉量のモニタリングを個別化
  1. 急性筋肉消耗とカタボリズムの指標:集中治療室(ICU)において患者が経験する急性筋肉消耗と筋力低下は、広く観察される現象であり、これらは長期にわたる機能障害へと繋がることがあります。筋肉の急速な減少はカタボリズムの明確な徴候であり、これに伴う筋力の喪失は患者の回復過程において重要な障壁となり得ます。
  2. 筋肉量の客観的測定:最新のGLIM栄養不良基準においては、減少した筋肉量の客観的な測定が、栄養不良の診断における中心的な要素として取り入れられています。このアプローチは、栄養状態の包括的な評価において不可欠な要素を提供します。
  3. 筋超音波によるカタボリズムの測定:筋超音波技術は、筋肉の分解を測定するための方法として広範に研究されており、さまざまな介入試験での成果測定に使用されています。その利点として、手軽さ、リスクやコストの低さ、壊死や筋膜炎の検出能力、およびICU内外での身体機能との関連性が挙げられます。しかし、測定の標準化の欠如や画像取得・解析の問題点も存在します。
  4. CTによる筋肉量の測定:CTスキャンによる筋肉量の測定は、小さな変動係数を有し、その測定は標準化されています。しかし、繰り返しのCTによる筋肉量測定は、コスト、放射線暴露、および物流上の問題から実施が困難です。
  5. 生体インピーダンス分析(BIA)による体組成の測定:生体インピーダンス分析(BIA)は、流動体の影響によりICUにおいて信頼性が低いとされてきましたが、多周波数デバイスを使用した研究では、体組成自体はDXA(X線吸収法)ほど正確ではないものの、フェーズ角値とその時間経過に基づくデータが有益であることが示されています。
  6. カタボリズムの生化学的特徴付け:カタボリズムの生化学的サインに関する調査が進行中であり、メタボロミクスは顕著な個別化を提供しますが、コストと専門的な分析・解釈の性質が一般化の障壁となっています。尿素クレアチニン比(UCR)は生理学的研究で使用され、持続的な重症患者や術後筋肉消耗を経験する患者を識別するのに有効です。
⑨特殊な代謝栄養素の使用をどのように個別化すべきか?同化作用のある栄養素をどのように使用すべきか?
  1. ICUにおけるプロテイン投与の不足:ICUにおける経腸栄養(EN)を通じたプロテインの供給は、しばしばWHOの健康な人口に対するプロテイン推奨量を下回り、筋肉の損失を防ぐ上での影響が懸念されます。
  2. 筋肉合成刺激に焦点を当てた栄養素の探求:筋肉タンパク質合成(MPS)を刺激し、筋肉タンパク質分解(MPB)を減少させる、またはその両方を目的とした単一栄養素の探求が有望視されています。
  3. アナボリック栄養素の選択:アスリートによく使用される栄養素であるロイシン、β-ヒドロキシβ-メチル酪酸(HMB)、クレアチンは、ICU患者においてもそのエルゴジェニックな特性から興味深いです。
  4. ロイシンの効果:ロイシンは、哺乳類のラパマイシン標的(mTOR)を刺激し、MPSの基質として作用する必須アミノ酸です。しかし、ICUにおける効果に関する研究は限定的です。
  5. HMBの潜在的効果:HMBはロイシンの代謝産物で、MPSを刺激し、MPBを抑制することが知られています。HMBは、筋肉消耗のリスクがある様々な臨床集団において、筋肉量と筋力の改善に効果的であると報告されていますが、ICUにおける効果に関する研究はまだ限定的です。
  6. クレアチンのメカニズムと潜在的利点:クレアチンは細胞内のリン酸クレアチンを増加させ、MPSに必要なATP生産を増加させることができます。特に、クレアチンレベルが低い患者において、最も利益をもたらす可能性があります。

 

ICU後の身体機能の回復を個人に合わせて調整する方法-栄養、運動、蛋白同化薬?
  1. ICU後の身体機能の回復:ICU生存者は、特に48時間以上の人工呼吸器使用や重度の多臓器不全(MOF)の場合、長期にわたる身体機能の障害を経験することが一般的です。したがって、ICU患者の全経過にわたる個別化された栄養と運動が重要です。
  2. テストステロン欠乏症とその影響:ICU患者の多数(約95%)は、ICU入院初期に重度のテストステロン欠乏症を示します。持続する低テストステロン症は、回復およびリハビリテーションに影響を与える可能性があります。
  3. テストステロン/アナログと運動の組み合わせ:テストステロンやそのアナログと運動を組み合わせた治療が、さまざまな疾患において臨床成果や身体機能の改善に効果的であることが示されています。
  4. オキサンドロロンの効果:重度の火傷患者においては、オキサンドロロンの使用が体重減少の軽減、筋肉量の増加、ドナーサイトの治癒の改善、そしてICU滞在期間の短縮などの有益な効果があることが示されています。
  5. 栄養投与と運動プログラム:ICU後の設定では栄養供給が不十分になることがあり、構造化された栄養投与戦略がこれを改善するのに最適です。また、個別化された運動プログラムが、ICU回復における重要な介入になりつつあります。
  6. 個別化された運動/リハビリテーションプログラム:既存のICUリハビリテーション試験の結果が不十分であったため、個別化された心肺運動テスト(CPET)に基づいた運動/リハビリテーションプログラムが将来のICUリハビリテーションにおける鍵となる可能性があります。

 

研究の限界と批判的評価

このレビューは、専門家の合意に基づく提案であり、特定の患者集団や状況に対する提案の効果についての直接的な研究データはまだ不足しています。
ICUにおける栄養療法のパーソナライズ化の実際の効果を評価するためには、今後さらなる臨床試験が必要です。


結論:一人ひとりに合った栄養療法の未来へ

ICU栄養のパーソナライズは、重症医療の未来に不可欠です。」

ICUにおける栄養療法のパーソナライズ化は、患者さん一人ひとりの回復をより効果的にサポートするための重要な一歩です。この研究は、患者さんのニーズに応じた栄養管理の新しい指針を提供し、将来のICU栄養療法に大きな影響を与えることでしょう。